2_wEi 1st Live "Driven to Despair" プレビュー
2_wEiとエビストにとって今回のライブはどのような意味があるのか整理しよう。
一行で言うとこれはきっと物語上重要なイベントで、現実世界まで巻き込んだ状況になっているという趣旨のことを原稿用紙7枚ぐらいの分量で書いたものになる。
“Driven to Despair”
この世に出されることなく一度は破棄された2つのボーカルソフトが人格と実体を持ったアンドロイドとして復活。その生まれの理不尽に対する怒りから復讐を期するものの開発者である虎牙優衣は既に亡くなっており、やり場のない怒りから人類の音楽の破壊者となる…というのが大雑把な2_wEi第1章の筋書きになっていた。
第1章が2人の生まれに対する絶望であるならば、第2章は双子でありながらそれぞれ異なる、より深い絶望へ落ちていくというストーリーだ。
アルミは生みの親も彼女にかけられていた愛情も、破棄に関わる事情も知らないままアンドロイドとして生み出され、それが彼女の飢餓感・虚無感に繋がっている。飢えを埋めるように虎牙優衣の部屋に残された人格データとコミュニーケーションを重ねていたが、彼女に対する不信からデータを「偽物」としてハードウェアごと破壊してしまう。虎牙優衣が2人を想って残したものだと理解した時には遅く、一番歌を聴かせたかった相手は二度と戻ってこない。
ミントは生前の虎牙優衣と話したことがあってアルミのような飢餓感を抱えておらず、第1章から姉の心の空白をなんとか埋めようとしている。そうするのは自分たちを破棄した虎牙優衣ではなく自分だと思っていて、それゆえにアルミが虎牙優衣の痕跡を探そうとする時、視線の先に自分がいないことに複雑な感情を抱いている。
姉の絶望を生んだのが虎牙優衣ならば絶望から救えるのも彼女しかおらず、自分だけが彼女の愛情を知っているがゆえに姉との間には越えられない断絶が横たわっている。ミントの絶望はその断絶だ。
双子でありながら分かたれた絶望。“Driven to Despair” というタイトルはこういった背景を含んでいる。
絶望に落ちてもなおボーカルソフトとしての在り方が、歌うことへの欲求が2人をステージへと駆り立てるのか。今回のワンマンライブは2_wEiの物語にとって重要な局面になる。
ゲーム世界の拡張としてのライブ
4th Liveでの2_wEi登場から、8beat story♪のライブは単に歌やダンスを披露するイベントではなく、ゲームで進行中のストーリーが現実世界で展開されるイベントだという見方ができるようになった(以前にも匂わせるような演出はあったが私はそこまで考慮していなかった)。
言い換えると現実でのライブがストーリーの大枠に組み込まれており、現実とゲームが相互に作用する仕組みになっている。
4thでファンにそういう見方が共有された(されているはず)のは、ライブを直前に控えたタイミングでのストーリー更新という演出(お膳立て)、ステージ上での2_wEiの振る舞い…野村・森下という声優としての面を出さず最初から最後までキャラクターとして立っていたことが大きいだろう。「敵同士」という立ち位置から8/pLanet!!と会話・言及し合うことも一切なかった。
マチアソビ、Chara1 Oct.に出展した際のミニライブでもキャラクターとして歌うステージが一貫していて、2人がゲームから出てきた存在であることが強調されている。(SNSで担当声優が敵方の告知に加担するところも意外なほど見ない)
このようにキャラクターを使って、ゲーム内とリアルイベントが連動しながら物語を展開する仕組みを持った作品は類似の二次元アイドル作品では意外と思いつかず、新鮮に感じる。「二層展開式少女歌劇」をコピーとする『少女歌劇☆レヴュースタァライト』のような舞台作品に近いものがあるかもしれない。
イベントの内容としてはあくまで音楽ライブであってストーリーを見せることが中心ではないが、間違いなく物語の舞台として設計されているのが4th以降のエビストのライブになっていくだろう。
ロールプレイング
2_wEiの登場を契機に、今のエビストはゲームと現実の境界を持たない物語になった。ゲームの舞台である2031年が2018年に侵食してきていると言っていい。4thのZepp Divercity Tokyoと同じようにDuo music exchangeも2031年濃度の高い空間が出来上がるはずだ。
その場にいる私たち観客はもはや2018年ではなく2031年の人間となる。どんな人間に?選択肢はいくらでもある。敵情視察に来た8/pLanet!!を率いる「先生」、人間擁護派、アンドロイド音楽急進派、アンドロイドに活躍の場を失われたミュージシャン、2人の表現する絶望に協調する一般人、アルミ・ミントの顔ファン、単にライブがあるから来た人、などなど…
私たちは物語の中にいる人物としてそこに居合わせることになるだろう。
バンド
第2章の中で、次のライブでは人間のバックバンドを入れようと2人が話すシーンがある。これまで書いてきたような事を考えると、自然とそのライブが11/18のワンマンライブを指すものだと判断できる。ストーリー上でバンドが入るという告知がされる状況に面白さを感じた。
このバックバンド導入には物語上の意味も見える。アルミは「人間もアンドロイドも関係ない、2_wEiだけの絶望を歌いたい」とミントに話しており、両者の戦いの中に身を置くよりも純粋に表現として歌いたいという決意をこの判断に見ることができる。
そしてアンドロイドと人間がチームを組むという点で見ると(メイは素性を隠しているとはいえ)8/pLanet!!と2_wEiが同じ位置に付くことになり、これが本筋に与える影響如何と考えてしまう。
面白いのはバンドメンバーにもチームを組むまでのドラマが発生してしまうところで、十字路の上でアンドロイドに魂を売ったギタリスト、音楽では生活しづらくなっていた所にテクニックを見込まれて雇われたベーシスト、純粋な音楽的追求のために参加するドラマー…といったバックボーンまで見えてくる。
虚実の判断を失った狂人のような発想だが、作品自体が元々そういう構造をしているのだから大目に見てもらいたい。
物語
さて、ここまでに「物語」「ストーリー」という単語を何回使ったでしょうか。なんと「物語」8回、「ストーリー」7回。去年の夏に投稿された公式のツイートを見てみよう。
本日は
— 【公式】8 beat Story♪ (@8beatstory) August 19, 2017
「第1回リーディング&ミニライブ企画」イベントありがとうございました!
朗読パート、ライブパート共に楽しんで頂けましたか?
今後も物語を楽しんで頂けるイベントが出来ればと思います!#エビスト pic.twitter.com/tq0WWNSXJK
物語か。8beatstory♪は本気で物語をやろうとしているぞ。